2009年07月16日

「売国」論議を超えよう



いよいよ総選挙で政権交代かという時に、あるニュース。

植草元教授の実刑確定へ 最高裁、上告棄却を決定(NIKKEI NET)
電車内で女子高生に痴漢行為をしたとして、東京都迷惑防止条例違反罪に問われた元大学院客員教授、植草一秀被告(48)の上告審で、最高裁第3小法廷(近藤崇晴裁判長)は27日までに、被告側の上告を棄却する決定をした。同被告を懲役4月の実刑とした一、二審判決が確定する。
経済学者・植草一秀氏の実刑4ヶ月が確定しました。

書店によっては、発売と同時にベストセラーになっている副島隆彦・植草一秀「売国者たちの末路」(祥伝社)の出版タイミングとも近いのが興味深いですね。

この本、ネットで買って読みました。まず「売国者」とは穏やかじゃないですね。出版社が付けたネーミングなのでしょうが、あまり品が良くありません。

言葉そのものが大きな印象を与えてしまうことがあります。マルクス経済学に、「搾取(さくしゅ)」という用語があります。「資本家が労働者を搾取する」などという使い方をしますが、「資本家=悪」といった大前提が刷り込まれているとして、科学的でないとする立場の学者もいます。

「売国者」も、「売国者=悪人」つまり、「誰々は悪人である」と定義して、すべての原因を人のせいにするという論理展開がなされやすい危険な言葉だと思います。「彼は売国者だから」と言って意見を封じ込めやすい、便利な言葉でもあります。

また、売国とはどういうことなのかと言えば、国益に反すること。じゃあ国益とは何かと言えば、それは人によって違います。何が国益かを曖昧にしたまま売国云々と言っても、説得力はありません。

そういう最低な表題の本にも関わらず、結構売れているというだけあって、読みやすいし内容はある気がします。ちょっと高い(1600円)ので立ち読みでもいいかもしれませんが。

ただ、憂国の書、警告の書ではあるけど、具体策は乏しい。「ではどうすればいいのか」というのは弱い。
この本で言う「売国者」の一人、竹中平蔵さんは、日本の利益ではなくアメリカの利益になるような政策を採ってきたと言われます。私は、そうだとするなら、じゃあなぜ、彼はそういうことをするのかということに興味があります。もともと「売国者=悪人」だから、そういう悪いことをするんだ、というのでは合点がいかないのです。
本書で副島さんが書いておられるように、日本はアメリカの属国です。その理由は、
「政治と経済は互いに貸借を取り合ってバランスする」理論を現実に適用すると、日本のように軍事力がないことになっている弱い国の場合は、経済的にアメリカに支配される。
アメリカにお金を払うことによって足りない分(安全保障)を補う。それで貸借がバランスしているはずだという考え方です。だから今も日本は一生懸命、アメリカに貢がなければいけない。大切な国民の資産を奪い取られるようにして、日本の富がアメリカに流れ出している。それはやはり政治が弱いからです。
竹中平蔵さんが小泉政権に入っていたとき、仮に、アメリカにせっせと貢いでいたのだとしても、軍事力を増強せずにアメリカの軍事力を活用して、うまく提携できていたとするなら、国益にかなうと考えることもできます。「アメリカを怒らせず、仲良くやることこそが国益にかなう」と真剣に実行するなら、「売国者」とレッテルを貼って問答無用にする必要があるのでしょうか。

この本や自身のブログでも、植草さんは政権交代を待望されているようですが、無事、政権をとった暁に、アメリカが脅して来た時、もしあなたが政権の中にいた場合、どれほど国益にかなう見事な対応をされるのか。そこで初めて(ライバル?)竹中平蔵さんとの比較ができるのではないでしょうか。

P.S.
本書によると、銀行の不良債権処理のとき、竹中さんは「デッド・オーバーハング」説や「ディスオーガニゼーション」説を持ち出していたそうですが、これを言っていたのは姫路出身で経済産業省小林慶一郎さんだそうです。姫路ネタも無いとがっかりする人がいるみたいなので・・。
ちなみに全くもってどーでもいい話ですが、小林さんの実家は、私の実家の近所です。

参考
【書評】売国者たちの末路(書評の可能性)
植草一秀の『知られざる真実』 - 毎日更新。実刑4ヶ月の判決が出たので更新はしばらくお休みになるのでしょうね。超人気ブログ。
竹中式、批判の三類型(372log@姫路)

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Posted by miki at 00:00│Comments(4)政治
この記事へのコメント
参考にしていただき、有難うございます。

「売国者」というセンセーショナルな単語に踊らされず、自分で判断したいものですね。

なお、小林慶一郎氏と加藤創太氏の共著である『日本経済の罠』がディスオーガニゼーションの議論が出てきた頃の著書だったように記憶しています。
あれは経済学的にいい本でした。
Posted by Taka@中小企業診断士(業務休止中) at 2009年07月16日 01:10
Taka@中小企業診断士(業務休止中)さんへ

コメントありがとうございます。
Posted by miki at 2009年07月16日 07:40
こんにちは。私は小泉・竹中改革否定派なので少し。

>私は、そうだとするなら、じゃあなぜ、彼はそういうことをするのかということに興味があります。もともと「売国者=悪人」だから、そういう悪いことをするんだ、というのでは合点がいかないのです。

私は2つ考えられると思います。
1つは、確信犯で何らかのコミッションを外資などから受け取っていたというもの。世間では、我が国の官僚が自らの天下り先確保に国民を省みることも無く日々汲々としているなどという、大多数の官僚には無関係(と信じたい)であろう話がまことしやかに語られていますし、際立って信憑性のない話でもないと思います(残念なことに疑獄は昔からありますし)。
もう1つは、自分が正しいと信じた政策を信念を持って実行した結果がこれ、ということです。こっちのほうが余程たちが悪いとは思いますが。

>「アメリカを怒らせず、仲良くやることこそが国益にかなう」と真剣に実行するなら、「売国者」とレッテルを貼って問答無用にする必要があるのでしょうか。

いくら、仲良くすることが国益だとしても、郵貯300兆円を外資に貢いだり、かんぽの宿などの国民資産を民間企業に格安で払い下げて国民の資産を危険にさらすことと釣り合うとは素人目にも思えませんし。

あと、本書にもあるみたい(読んでないので)ですが、ミサワホームの現社長が竹中の実兄っていうのを見て、うさんくさすぎると感じるのは考えすぎでしょうか?
Posted by 西播人 at 2009年07月19日 23:38
西播人さん

コメントありがとうございます。

竹中さんは我らが関西の地方都市・和歌山の出身で、父親は商店街で小さな商売をやっていたそうです。
「こんなに一生懸命に働いているのに、なぜもっと豊かにならないのだろうと思った記憶があります。(中略)頑張っている人も頑張っていない人も一緒になるというのは、ものすごく不平等だと私は思うのですが、これは幼少の体験が染み付いているのだと思います。」と著書に書いています。
氏は基本的に頑張り屋さんなんだと思います。そして、頑張っている自分に何らかの利益が返ってくるのも当然と考えていると思います。
国のためになら自分は犠牲になってもいいという人でない可能性はありますね。
国を主体と考えるか、個人を主体と考えるかという意識の差は人それぞれあるかもしれません。
私の場合は日本語しかマトモに喋れないくせに、個人を主体と考えてしまいます。だから「売国」に拘りすぎる意見に、引くところがあるのかもしれません。

竹中さんが姫路で講演したとき言ってましたが、「ソニーは外資系」なんだそうです。出資比率見たら過半数は外資。自分が住んでるマンションは三井不動産だがこれも外資だと。

とすると、外資に貢ぐとはどういうことなのか?というのすらわけがわからないという面があります。そういう時代になってしまっている。アメリカ金融資本主義は崩壊したとしても、じゃあブロック経済で行きましょう、江戸時代に戻って鎖国しようというのも土台無理です。

まあ世間から見て胡散臭いと思われるようなことがあれば、国会でもどこでも弁明すればいいと思いますがね。

以前、亀井静香さんが「立場は違うがあなたは優秀だから、小泉時代のことは総括して、その能力を私たちに貸して欲しい」みたいなほめ殺しとも本音ともとれることをテレビで言ってましたが、植草氏のいう「情報の流通業者」としての能力を、大いに活用すべきでしょう。
Posted by miki at 2009年07月20日 10:03
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