2008年02月08日

ギョーザ事件とスプリング8の使いかた

SPring-8播磨佐用町

中国で生産されたギョーザに有害物質が含まれていた事件が波紋を広げています。被害に遭われたのが姫路市のお隣、高砂市のかたということもあり、まさに身近でかつ日中関係にも及ぶ大事件の様相。
昨日には、検出された「メタミドホス」を化学分析するなど、科学捜査に全力を上げることを決めました。

同一殺虫剤か分析へ 高砂、千葉などのメタミドホス(神戸新聞)
成分の違いは毒物の“指紋”にあたり、不純物などの含有成分が一致すれば中国で混入した疑いがさらに強まるなど、混入場所や時期を絞り込む有力な手がかりになる。
(中略)
一九九八年七月、和歌山市で起きた毒物カレー事件では、兵庫県佐用町の大型放射光施設「スプリング8」で、カレー鍋に混入されたヒ素と、被告宅にあったポリ容器などから採取されたヒ素を鑑定。物質を原子レベルで解析してヒ素を同一と断定し、裁判でも信用性が認められた。警察当局は今後、スプリング8での成分解析も、検討するとみられる。

世界最先端の研究をするわけでも無いのに、警察の捜査にスプリング8の話が出てくるのはなぜでしょうか。

兵庫県放射光産業利用の推進というページに、
放射光とは?

放射光とは高いエネルギーを持って光に近い速度になった電子の進む軌道が、電磁石の力で曲げられたときに、その接線上に放射される強い光(電磁波)のことで、1億分の1センチメートルというような原子や分子の世界をはっきりと見ることのできる、 とても明るい光です。
放射光を使い、これまでの観測手段では見ることができなかった、物質表面の原子の並び方やその3次元構造がわかってくることで、まったく新しい機能を持った材料をつくることができるかもしれません。
さらに、多種多様のタンパク質の構造解析が進めば、食品、医薬・農薬、化学、エネルギー、環境、農水産、 電子・機械など多くの分野での応用が期待されます。

とあります。要するに高性能の顕微鏡なわけです。しかし、最近の顕微鏡は十分性能が高いため、一般の産業利用には、無用の長物でもあったのです。

兵庫県は播磨科学公園都市というのを山奥に計画したのですが、あまりに何も無いところなので、目玉がいるということで誘致してきたのがスプリング8でした。誘致に成功したので、産業誘致が加速度的に進むと期待した人もいたと思います。
しかしこれまでは、施設が凄すぎて産業誘致に直結してきませんでした。

むしろ、これまで見えなかったものが見えることによる科学的興味、学術利用、サイエンス(科学)分野での利用が中心になっています。事実、世界初の発見はスプリング8から次々と生まれています。
しかし、世界初のサイエンスがビジネスとして社会の役に立つところまで、言い換えるとエンジニアリング(工学)のレベルにまで昇華するのには、時間がかかります。兵庫県が山奥を切り開いた時に使った造成費用を回収する前に、財政破綻して県そのものがなくなっているかもしれません。
時間がかかるのとは別に、場所の問題もあります。世界初のサイエンスをスプリング8で発見し、エンジニアリングを違う場所でやれば、必ずしもスプリング8の周囲にエンジニアリングは必要ありません。
トヨタがスプリング8に専用ラインを引くみたいですが、エンジニアリングは名古屋でいいわけです。

これまでスプリング8の活用というと、こういうジレンマに陥っていて、産業利用という面で期待通りに進んできたとは言えませんでした。産業利用というとわかりにくいのですが、「直接世の中の役に立つ使い方」と言ってもいいでしょう。

補助金利用7年で4件(YOMIURI ONLINE)
世界最大の大型放射光施設「SPring―8」の利用を促し、地元企業の活性化や技術力アップを図ろうと姫路市が設けた補助金の利用が制度を創設した2001年度以降、わずか4件にとどまっている。想定の2割にも満たない不人気ぶりに、担当者は「PR方法を検討したい」と頭を悩ませている。
(中略)
和歌山市の毒物カレー事件の亜ヒ酸分析(1998年)や、三角縁神獣鏡の成分分析(2004年)などで上げた研究成果で知られ、産業界の利用は年々増えている。
おひざ元での低迷について、市産業・港湾振興課は「申し込み時に研究内容を記入してもらっているが、このことが『企業秘密が漏れる』と敬遠される原因になっているのかもしれない」と分析。

今回のギョーザ事件で、スプリング8の話題が出てくるのは何故か。警察は民間と違って「コスト意識がないから高額な顕微鏡でも平気で使う」ということでしょうか?
私は、2つの理由があると思います。

1 使用目的が「同一性の判定」ということ
2 和歌山カレー事件で信用性が認められた実績

「AとBが異なる」ということを言うためには、普通の顕微鏡で済むのですが、「AとBが同一である」と言うためには、普通の顕微鏡では言えません。「もっと性能のいい顕微鏡で見たら違うかもしれない」ということになります。
つまり、同一であるということを言おうと思ったら、可能な限り性能のいい顕微鏡で見る必要があります。だから、カレー事件の時も砒素の同一性判定に使ったのでしょう。そしてそれは、法的にも認められた。裁判所が同一と認める際にも、「世界最高レベルの顕微鏡での判定」ということが有利に働いたと思われます。
そして、今回はすでに和歌山でできた実績があります。他の顕微鏡ではなくスプリング8での実績ですから、同一性を証明するのに、これを使わない手はないわけです。

たんぱく質の解析といったサイエンスの発見は、科学的な興味も大きく、それなりに利用されるし、いずれはエンジニアリングに昇華されて社会の役にたっていくと思うのですが、時間がかかる。
「同一性判定」というのは、科学的には何の興味もないから学者はやりたがりませんが、実社会では、すばやく判定できて時間を買えるというメリットがあるように思います。

世界の動きが速く、時間との戦いが顕著となる企業間競争で、この「時間を買う」という観点で、警察だけでなく、企業でも利用価値を認める可能性があるように思います。

参考
X線高速検出を阻む"分極現象"の原因を世界で初めて究明- ナノ秒超高速の高エネルギーX線検出器の開発に光明 -(SPring-8プレスリリース) - 世界初の「成果」には事欠かないが・・。
播磨からノーベル賞も(ひめナビブログ) - ノーベル賞が出ても、産業利用とはまた別の問題。
トヨタが播磨に研究拠点を設ける理由(ひめナビブログ) - トヨタの開発拠点は従来どおり。

(YouTube)
関西テレビスーパーニュースアンカーの2月6日放送分の一部。淳心学院姫路市本町)出身の青山繁晴氏が、中国で容疑者が拘束されているとの情報を入手。(参考

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この記事へのコメント
なんだ・・・餃子が回ると思ってた・・・
Posted by 生 at 2008年02月09日 02:38
先日の読売新聞夕刊に、
スプリング8での分析も検討しているという記事がありました。

毎日徐々に明らかになっていますが、
1日でも早く決着してほしいものです。
Posted by てつぅ at 2008年02月10日 11:20
てつぅさま

コメントありがとうございます。
Posted by miki at 2008年02月10日 22:37
生さま

コメントありがとうございます。
Posted by miki at 2008年02月10日 22:38
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